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2020年09月02日(水) 投稿者: 移行用 管理者

『最近の米大統領選を巡る動き 川原 英一 (高21期)』

4年に一度の米大統領選が今年 11月3日に行われます。同大統領選の結果は、今後の世界、日本にとり大きな影響があります。8月後半に開催された民主党と共和党双方の全国大会については、日本の TV でも大きく報じられていました。民主・共和両党の全国大会に関する動画(Youtube)や英米主要紙報道などを見た私個人の印象を以下お伝えします。

◎全体として、民主党バイデン大統領候補とトランプ大統領が党大会で示した熱意の差を感じました。
 共和党大会でのトランプ・ペンス大統領・副大統領候補及び推薦人演説は発信力があり、新型感染症下での参加者数を最小限に絞り、これまでのお祭りのような大会と同じではなくても、共和党大会での盛り上がりを感じました。 民主党大会ではバイデン大統領候補及び副大統領候補となった加州出身上院議員の指名受諾演説が短く、政策に関する具体的内容に乏しく、またZoomでの党大会であり、バイデン候補は会場ではなく、自らの選挙対策本部からリモートで出演するなど、とても熱意を感じさせると言えない雰囲気でした。

◎バイデンの政策は、富裕層への増税と社会保障拡充(国民皆保険)、同盟国との連携強化、米のリーダーシップを回復するなどの主張ですが、他方、アジア太平洋地域の安全保障・貿易取極めなどへの対応については、いまだ対応を決めていないようです。むしろ、発言で失点をしないよう、また、相手候補の失言・失点待ちの姿勢にも思えます。また、トランプ政権の新型コロナ対応は、失態だと決めつけ、米国民皆検査実施を唱え(※実際には、既に米国内検査能力は 1 日当り80万件から150万件まで増加)、米国の将来がトランプ政権では暗い将来になるといった発信内容ではなかったのかと思います。
バイデン大統領候補には自からの政策課題が見られず、大統領予備選挙の際、若者から圧倒的支持を得たサンダース上院議員の考えを反映した政策綱領となり、仮に大統領に就任した場合、民主党エリート議員やペロシ下院議長(民主党)が実質的に政策内容を決定するのではないかとの見方が当たっているのではないかと感じます。トランプ大統領は、バイデン大統領候補を”Torojan horse“(トロイの馬)に例えています。
バイデン候補が40年以上の長い議員活動、上院外交委員長、オバマ政権下での副大統領であった 8年間を通して、自らの判断を変え、安全保障(国際テロ対策)・外交政策面(NAFTA や中国の WTO加盟など)で間違いを繰り返したとの指摘もありました。事実でなければ、反論すべき点です。

◎トランプ大統領は 10 年以上TVのリアリティ・ショー司会をし、また、ペンス副大統領もラジオで同様な番組を長く持っており、共に発信力があります。ペンスさんが属する福音派は全人口の25%を占める保守層(中絶反対など)であり、今回も共和党支持に回る人が多いと思います。前回トランプ大統領の支持岩盤層の一つ貧困層白人層のみならず、今回の共和党大会では、ティム・スコットさんというアフリカ系上院議員であり、アメリカン・ドリームを体現した方が、トランプ支持について見事な内容のスピーチを行っています(※)。
(※)(https://www.youtube.com/watch?v=xbjn2bg1Eus )

特筆すべきは、トランプ大統領長女のイバンカ補佐官のスピーチです。4 年近く、ホワイトハウス内での父トランプの行動を傍らで見て、首都ワシントンの常識にとらわれず、国民のため決断する信念の人であること、トランプ大統領が大型減税、規制緩和を進め、さらに不公正な貿易の是正、あらゆる階層のための包摂的経済(inclusive economy)に変えるとの決断を行ってきたこと(同スピーチ 7 分目以降)、この結果、中国発・欧州経由の新型感染症が始まる今年 2 月までは、戦後最低の失業率となり、新たに創出された雇用の多くは女性のためであったこと、感染症への対応が、当初の困難な状況から官民連携で驚くべき成果をあげたことなど述べており、17分間の果敢で見事なスピーチは印象的です(※)。
(※)https://www.youtube.com/watch?v=gz5qbv7MUzs

ホワイトハウス南庭に特設された共和党大会会場に集まった 1500 名の参加者や TV 中継を通じて多くの米国民にも感動的スピーチではなかったかと思います。女性支持者も増えたのではないかと思います。

◎今年 7 月、ポンペオ国務長官が、中国の拡張政策、特に南シナ海における軍事力を使用した一方的現状変更を国際法違反と明確に発言し、不公平で相互主義でない中国の経済・市場政策、経済・軍事大国化に対して、同盟諸国が連携して対応していくことなど米国の対中外交政策が転換したこと述べていました(*)。
(*)https://www.youtube.com/watch?v=7azj-t0gtPM

中国の影響力の前に沈黙せざるを得ない ASEAN 諸国を後押しするばかりでなく、東シナ海で尖閣諸島を自国領だと主張する中国に対して厳しく対応する米国の姿勢を明らかにしてくれています。ここ数年、米国内で中国を問題視する人が多数を占めているようです。トランプ政権が、中国に対して過去のどの米政権より強い対応をしたのは事実であろうと思います。その過程で、中国の長年にわたる不公正と相互主義とは異なる行動パターンが明確になり、米議会で対中姿勢が厳しくなったのもトランプ政権のおかげなのかもしれません。8月、イスラエルと UAE(アラブ首長国連邦)の国交正常化に関する共同声明の発表があり、他のアラブ諸国のイスラエルとの関係正常化へ追随の動きも今後予想されています。これもトランプ政権が仲介して結果であり、米国歴代政権がなしえなかった変化なのでしょう。

◎政治家として常識的な決断をしないトランプ大統領を批判するワシントンのエリート層や米メディアに敵が多いのがトランプ大統領です。今後もトランプ大統領批判が続き、思いもかけない展開になる可能性が常にあります。11 月 3 日の米大統領選投票日まで、紆余曲折があり、さらなるドラマが展開されることと思います。なお、民主党は郵便投票の実施で投票への垣根を低くして、選挙結果を有利にしたい考えもあるようです。今回初めて、期日前投票だけではなく、各州の投票全てを郵便投票とする場合には、不正や集計ミスなどのリスクもありそうです。 (令和2年9月1日記)


川原 英一
(元駐グアテマラ大使/元マイアミ日本総領事)